■一つ目の恋…おまけ
彼が転勤して一週間。
私は新任の派遣さんが来るまで期限付きで一人で業務をこなしていた。
でも、田神さんがいない寂しさを埋めるには、忙しいのが、ちょうど良かったのかもしれないー。
そして、その夜。
前から決まっていた田神さんの送別会が行われた。
久しぶり…といっても、一週間だが…。
居酒屋で行われた送別会に姿を見せた彼は、少し痩せたようだった。
彼は彼で、新しい赴任の場所で、新規の業務を覚えるのが大変のようだった。
一次会は居酒屋。
20人程集まった中で、賑やかに騒いでいた。
人も多く、少し話しただけで、肩を並べてお話はできなかった。
2時間程経った頃、お開きになり…
事務所の何人かで、二次会へという話になった。
普段は、一次会で帰る私も、その日は行くことにした。
行き先は、静かな薄暗いスナックだった。
田神さん含め6人だったかなあ…。
カウンターに、いち早く腰掛けた田神さんは、私に隣に座るように誘ってくれた。
その周りに、所長はじめ、山田さんや他のメンバーもいたが、田神さんは、他の人に…
『今日は彼女とお話があるから』
とシャットアウトしてくれた。
そんな訳で、カウンターに田神さんと私…
ボックス席で他のメンバーが座り、カラオケを楽しんでいた。
田神さんは…
私に色んな話をしてくれた。
小さな頃から、今までのこと…
なぜ家族を大事にしようと思うのか…
仕事に対する気持ちとか…。
私は、横で静かに聞いていた。
田神さんは、普段、とても明るくて、真面目だったけど、これまでの色んな経験から、こうなってるということ、
若い頃、ヤンチャで親にとても心配かけてしまったこと。
私の知らないことばかりだった。
今の田神さんは、色んなことが積み重なって、
今なんだなあ…と思った。
ふとしたとき、田神さんが私をジィっと見つめていた。
どうしたのかなあ…
と思っていたら、カウンターに腰掛けた田神さんの右手が私の腰にまわって、グイって引き寄せられた。
『俺は、家族を壊したくないから、これ以上は進めないけど、でも、俺もお前が好きだったよ。』
それだけで、私の気持ちは満たされた。
頭をポンポンと撫でてくれた。
この時間が、ずっと続いたら良いのに…と願った。
田神さんに逢ったのは、それが最後となった。
一つ目の恋が終わった。
※読んでいただき、ありがとうございました。