今週のお題「私の癒やし」
その頃…
私は昼間は事務、うちに帰ってからは主婦として相変わらずバタバタと過ごしていた。
そんな頃、私を癒やしてくれたのは…
斉藤さんの、あまりにもわかりやすいお世辞だった。
コーヒーをいれたとき、探し物を見つけたとき、会議資料を準備したとき…
あからさまに、私を褒めて、ありがとう…と声をかけてくれる。
それは、関東の人にとっては、当然の声掛けだと斉藤さんは良く言っていたが…。
九州では、亭主関白が当たり前で、育児、炊事、家事は女の仕事が当然。
ありがとうなんて、声掛けはないし、もちろん、手伝うなんて気持ちもない。
毎日、育児、家事に追われる私にとっては、年上の斉藤さんの優しい声掛けはとても癒やしになった。
その頃、家庭では、楽しいと思えなくても、会社にいけば、自分を認めてくれる、やりがいもあったし、なによりイキイキしている自分がいた。
うまく行ってるとはいえない家庭生活を、それでもなんとかこなせたのは…
斉藤さんの優しい癒やしかあったからだと言える。
※読んでいただき、ありがとうございます。
#癒やし #やさしく #亭主関白 #家庭生活 #育児 #感謝
■斉藤さんと二人
ゆっくりお話する事となったその飲み会は、賑やかな居酒屋だった。
10名近く、いたと思われるその飲み会で、偶然、私は斉藤さんの隣に、座る事となった。
斉藤さんは…。
そのいい加減な外見からは、想像できなかったけど、若い頃から、家族環境に苦労したこと、結婚してあまりうまく行ってないことなど、私に話してくれた。
私は、それまで、あまり良い印象をもっていなかった彼に、この時から親近感を持つようになった事を覚えてる。
本当は、この人は、寂しいひとなんだ、だから、虚勢を張って、いい加減をぶってるのかと思った。
私は、斉藤さんの理解者になってあげたい…
と思い始めた。
会社の中でも、批判的な人が多い。
だけど、私だけはわかってあげたいと思うようになっていた…
これが、二番目の恋となる、始まりだった。
※読んでいただき、ありがとうございます。
#居酒屋 #恋 #始まり #理解者 #批判的
■飲み会その後
それから、しばらくは…。
もちろん、飲み会で言われたのは酔ってたからだと、聞き流すことにして…私は黙々と仕事をしていた。
斉藤さんは、相変わらず仕事は適当に、アフターは飲み仲間と楽しげに過ごしているようだった。
だが、あの飲み会から、一つだけ変わった事があった。
斉藤さんが、私をみる視線が、熱を帯びていることに気がついていた。
それは、仕事中も、休憩中も、事ある毎に、視線がぶつかった。
特に言葉をかけるわけではなく、暖かく私を見ていた。
私は…
気づいていないふりをしながらも、けして嫌な気分ではなかった。
そして、そんな日々が1ヶ月も、過ぎた頃。
また、会社の飲み会があり、一緒に、お酒を、のんだ。
※読んでいただき、ありがとうございます。
■会社の飲み会で②
斎藤さんは、何気なく私にこう言った。
『お前、田神さんの事、ずっと好きだったよなー』
私は、動揺を隠して、返事をした。
『何の事だか、全くわからないけど〜。』
『斎藤さん、酔って変な事言い出したー』とサラッと流した。
すると、彼は…。
『オレは、お前をずーっと見てたから、お前が誰を見てたか知ってるんだ』
そう言って、彼はまた笑った。
私は、少し、酔ってしまったフリをしながら、斎藤さんとの会話を心地よく聞いていた。
もちろん、彼には、何人も飲み友達がいて、周りに何人も女の子がいて、私は斎藤さんに直接聞いた。
『斎藤さん、こっちにもたくさん彼女がいるでしょ〜?
単身赴任だからって、遊びすぎだよ』
すると、斎藤さんは…。
『俺はずーっと、お前が好きだったんだ。でも、お前は田神さんが好きだったからさ』
私は…。
驚きでいっぱいだった。
※読んでいただき、ありがとうございました。
#飲み会 #心地よく #好き #居心地
■会社の飲み会で
定期的に行われていた会社の飲み会。
私も、気分転換によく参加していた。
田神さんがいなくなって、初の飲み会の時…。
どことなく、寂しくてそれが表情に表れてしまったのかもしれない。
順番に、ビールをついで回っていた斎藤さんが、私のところにもやってきて…
『のんでるかー?』
と声をかけた。
私は、適当に流すつもりで、『飲んでますよー』と返事し、彼が次に移るのを待っていた。
だけど、何故か、斎藤さんは私の隣にドンと座り込み、そのまま飲み始めてしまった。
私は…。
内心、面倒くさいなあ〜と思いつつ、横に座った斎藤さんの相手をすることになってしまった。
今から思えば、彼とゆっくり話したのはその時が始めてだったかも知れない。
斎藤さんは、大好きなお酒を、たくさん飲みながら、
私に、始めて赴任した日の事や、事務所で、朝、全員にコーヒーを入れてくれるという風習に、とても驚いたことを話してくれた。
私の地元は、九州の片田舎だったため、亭主関白、上司にお茶を入れる事は、入社して一番初めに、覚えるというのが当たり前だった。
どの会社にいっても、まず覚えるのは、周りのコーヒーの好み。
この人はミルクだけ、あの人はミルクと砂糖…。
そうやってカップとコーヒーを覚えつつ朝は一人ずつコーヒーをデスクに配り、人の名前を覚えるのが新人の仕事だった。
ごく普通に事務所の中では、毎朝、女性が皆のコーヒーをいれ、カップを洗う。
私達には普通の事だったけど、地域によっては、特別の事だったのかもしれない。
斎藤さんは、今まで、コーヒーなんか入れてもらったことはない!とびっくりしていた。
関東の方では、男性も女性も対等だから、そんなことしてたら怒られちゃうって笑っていた。
九州男児の多い地域ならではの、事だったのかもしれないが、私は別に嫌いではなかった。
そんな話をしつつ、斎藤さんは、私に、ふれてはほしくない事を切り出した。
※読んでいただき、ありがとうございました。
■始まりは
昼顔の始まりは、そもそもどこだったか…。
とにかく、斎藤さんは、お酒が好きで、毎日、のみに出ていた。
単身赴任で知り合いが誰もいなかったのに、赴任して1ヶ月もする頃には、行きつけの居酒屋さんも、飲み仲間もたくさんできていた。
私が勝手に抱いていた都会の人のイメージ…
それは、ツンとすましていて、どこか、目線が必ず上からみてるような…。
田舎者を小馬鹿にしている…
絶対に自分は、こんな田舎の連中とは、馴染まないぞー!みたいな。
だけど、斎藤さんは違っていた。
すぐに、お友達もたくさん、
部下の人には、親しげに話しかける、場を和ませるために、気を使っている。
仕事に関しては、相変わらず、納得できない、いい加減さを持っていたけど、人懐っこい性格は、プライベートでは、いままで、私の周りにはいないタイプの人だった。
私がそんな表情を見かけるようになったのは、田神さんの事をあまり考えないようになってきた頃だった。
※読んでいただき、ありがとうございました。
■昼顔の彼①
私が田神さんに恋をしている頃…
後に、昼顔の相手となる所長の斎藤さんは…。
一言でいうと、傍目には、単身赴任を満喫していた。
出身が関東の方だったので、奥様は九州の片田舎には、ついて来ず、彼は一人で、会社から与えられたレオパレスの2DKのお部屋で生活していた。
赴任前から、夫婦仲は、こじれていたと、周りにもらしていた彼は、願ってもない単身赴任だったのかもしれない。
朝から夕方まで、会社で過ごし、帰宅後はアパートの近くの居酒屋さんで飲む。
休みの日には、録画したテレビを部屋で1日鑑賞し、一人のんびり過ごしていたようだ。
人懐っこい性格の彼は、すぐに行きつけの居酒屋となり、飲み友達も男女問わず、たくさんいた。
都会からきた、ちょっと周りにはいない明るい大人の男の人に、すぐに人が集まってきたようだ。
私の知ってる限り…
赴任後すぐに、職場内で、若い彼女を作った。
しかも一人ではなく、二人いた。
一人は20歳くらいの事務の女の子、隣の事務所で仕事していた子だ。
もう一人は部下である、小手川優子に似た面影のきれいめな20代後半の女の子。
同じ事務所内で仕事していたら、おもしろいように行動が分かった。
責任者という名の元にいたが、彼は、仕事に対しては、いい加減な面が多く、合間に女の子と遊びに行く約束をしていたり…
そんな姿を、よく見かけた。
同じ職場内で彼女が二人いると大変だ!
下手したら、二人がニアミスする事もあるし。
彼は、女の子にビデオの録画をお願いしたり、休みに部屋の掃除をしてもらったり、一緒にお酒を飲んだり…
うまく使い分けていた。
きっと、若い頃から、こうやって女の子が周りにきたんだろうなあ…と容易に想像できた。
その頃の私は、なんていい加減なんだろう、
このひとだけは嫌いだ…
早く東京へ帰ればいいのに…
私は強くそう思っていた。
※読んでいただき、ありがとうございます。